医療法人 社団三立会

真菌関連疾患研究調査機構のご紹介

はじめに

当機構設置法人の理事である澁谷和俊らは、この20年以上にわたり、

「侵襲性糸状菌症に対する病理診断画像解析システム」ならびに「新たな遺伝子診断支援技術」の開発に取り組んできました。

同時に、これらの開発の実効性の検証や病理診断を中心とする真菌関連疾患の発生動向や実臨床での問題点のモニタリング、

そして臨床の現場でまさに進行中である真菌症の治療の支援として、病理診断に関する他施設への支援活動を継続しています。

これらの活動は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援の下、東邦大学医学部病院病理学講座ならびに

近年では同真菌感染病態解析・制御学講座(寄附講座)と協働して進められています。

ここでは、その研究の概要とこれまでに得られた主な成果、




ならびに真菌関連疾患研究調査研究機構の展望を紹介いたします。


活動概要

糸状菌は一般細菌に比して培養陽性率が低いため、実臨床では組織や分泌物等の臨床検体から直接形態による診断を求められることが少なくない。

そこで、本項目担当者らは、深層学習機能を実装した侵襲性糸状菌症に関する病理自動診断システムの開発(概要1)と




病理標本(ホルマリン固定パラフィン包埋組織)を用いた遺伝子補助診断法の確立(概要2)を進めている。

この一方、従来の病理診断法に加えて、本課題で開発が進んだ診断法も取り入れて他施設で難渋した深在性真菌症例の病理診断の支援事業も展開しており(概要3)、




我が国における深在性真菌症の病理診断に係る問題点のモニターを継続すると同時に、病理組織学的診断の精度向上及び関連する補助診断開発の目標の設定に役立てている。

(概要1)

病理自動診断システムの開発

従前、組織標本上での糸状菌形態の自動分析システムの開発と評価を進めている。

これまでに標本上の菌糸同志で構成される交点角及び個々の菌糸の屈曲率を定量化するシステムを完成させている。

このシステムに侵襲性アスペルギルス症と侵襲性ムーコル症の組織画像教師データ

(培養又はPCRにて原因菌を同定したヒト侵襲性糸状菌症グロコット染色標本画像)を入力して

2パラメーターの分散から境界線(二次曲線で描出される閾値)を設定し、両疾患の自動鑑別システムを完成させた(図1)。

さらに本年度では、ムーコルの形態的特徴として知られる菌糸中央部の高い透亮性に着目し、菌糸の標本上で

本システムが認識する菌糸の透亮性を定量化し、第3のパラメーターとして3次元分散による鑑別システムを開発した(図2)。

(図1)

(図2)

本年度は、課題の一環として構築された多施設共同研究体系(研究代表施設:東邦大学、共同研究施設:市立札幌病院、近畿大学、刈谷豊田総合病院、がん研有明病院)の各施設における研究計画が承認され、試料の収集が開始された。令和8年5月末日現在、近畿大学より10症例20試料、がん研有明病院より12症例24試料が代表施設に提供され、自動診断システムによる解析および試料(ホルマリン固定パラフィン包埋組織、Formalin-fixed paraffin-embedded tissue: FFPE)を用いた遺伝子同定を開始した。

カラムリンク

(概要2)

遺伝子補助診断法の確立

病理組織学的診断に有用な遺伝子補助診断法としては、polymerase chain reaction(PCR)とin situ hybridization(ISH)が広く取り入れられている。各系ともに近年飛躍的に精度が向上しており、実臨床に極めて有用な補助診断法となっているが、依然として各系の特性により、前者では特異性が、また後者では感度に若干の課題が残されている。

カラムリンク

(概要3)

他施設の診断支援(リファレンス活動)

本研究の一課題として他施設の病理診断困難例に対する診断支援を行なっている。令和6年4月より令和8年1月現在までの実績は24例で、遺伝子補助診断が必要であった症例は9例(37.5%)、その内7例(全体で29.2%,遺伝子補助診断症例の77.8%)が糸状菌であった。この結果より実臨床の現場では、糸状菌、中でもムーコル目真菌とアスペルギルス属に代表される非ムーコル目糸状菌との鑑別が急務であることが確認された(表2)。2026年度は5月末日までに6例の診断支援の依頼を受け、組織診断に加え5例で遺伝子補助診断が施行された。経年的に遺伝子補助診断施行率が向上し、より精度の高い情報を依頼機関に提供することが可能となっている。

OUTLOOK

病理自動診断システムの開発

リファレンス活動を介しても明らかな様に、感染症、特に真菌症の診断に精通する病理医が極めて少数であることから、本事業で開発されたシステムを可能であれば無償で提供し、診断病理医の診断支援に貢献したい。

遺伝子補助診断





の確立

PCR陰性試料も含めて、同一の症例に対しISHならびに免疫組織化学的解析を行い、結果の相関のみならず、それぞれの特徴や有用性について、ガイドライン等を通じて適応や推奨度等を周知したい。

他施設の診断支援





リファレンス活動

病理医が払底している我が国の医療環境の中では、侵襲性真菌症の発生動向のモニタリング、支援の需要、ならびに実効性のある臨床、特に診断病理医の支援を目的に継続してゆきたい。

機構長

上席研究員(医療法人社団三立会理事長)

(東邦大学医学部真菌病態解析・制御学講座教授(寄附講座))

客員研究員(医療法人社団三立会千葉病理診断科クリニック技師長)

客員研究員(東邦大学医学部免疫学講座研究員)